大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)1118号 判決 1974年10月03日

原告 大東信販株式会社

右代表者代表取締役 栗田利一

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 三輪長生

被告 富久栄興業株式会社

右代表者代表取締役 吉川光一

<ほか六名>

右七名訴訟代理人弁護士 小池金市

同 菅野谷純正

同 林哲郎

主文

一  被告富久栄興業株式会社は、原告らに対し、別紙目録第二記載の建物を収去して、同目録第一記載の土地を明け渡し、かつ昭和四六年一〇月二三日から右明渡しずみまで、一か月四、一二〇円の割合による金員を支払え。

二  別表「被告」欄記載の各被告は、原告らに対し、それぞれ、同表「目録第二記載の建物部分」欄記載の建物部分から退去して、同表「目録第一記載の土地の占有部分」欄記載の土地部分を明け渡せ。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

一  当事者の申立て

1  原告ら

主文と同旨の判決および仮執行の宣言。

2  被告ら

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  訴外野村隆秋は、その所有にかかる別紙目録第一記載の各土地(以下「本件土地」という。)について、訴外勧業信用組合に対する債務を担保するため、根抵当権を設定し、昭和四三年四月二五日、その旨の登記を経由した。

訴外勧業信用組合は、昭和四五年四月、右の根抵当権に基づき、東京地方裁判所に対し、競売の申立てをし、同裁判所は、右の申立てにより、本件土地について競売手続の開始決定をし、本件土地のうち一の土地については、同月二〇日、同二の土地については、同年五月一二日、それぞれ任意競売申立ての登記がされた。

原告らは、右の競売手続において本件土地を競落し、昭和四六年七月中旬、競落代金を支払い、その所有権を取得し、同年一〇月二二日、その旨の登記を経由した。

(二)  被告富久栄興業株式会社(以下「被告富久栄」という。)は、昭和四四年六月一九日から、本件土地上に別紙目録第二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している。

本件土地の賃料相当額は、一か月四、一二〇円である。

(三)  別表「被告」欄記載の各被告は、それぞれ、同表「目録第二記載の建物の占有部分」欄記載の建物部分を占有し、同表「目録第一記載の土地の占有部分」欄記載の土地を占有している。

(四)  よって、原告らは、被告富久栄に対し、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことおよび同被告が本件土地を占有した日の後である昭和四六年一〇月二三日から右明渡しずみまで一か月四、一二〇円の割合による損害金を支払うことを求め、その余の被告らに対し、本件建物の占有部分から退去して本件土地の占有部分を明け渡すことを求める。

2  答弁および抗弁

(一)  答弁

請求原因事実を認める。

(二)  抗弁

(1) 本件土地の所有者であった訴外野村隆秋は、昭和四三年九月一二日、債権担保のため、本件土地の所有権を訴外毛塚誠治に譲渡し、訴外毛塚は、同年一一月七日、本件土地を、被告秋元清八、同粟谷初子に売り渡し、同被告らは、同月八日、本件土地について、中間省略の方法により、訴外野村から同被告らへの所有権移転登記を経由した。

右の被告らは、同年一二月二〇日、本件土地上に本件建物を建築した。

被告富久栄は、昭和四四年六月一九日、被告秋元、同粟谷から、本件建物を買い受け、その旨の登記を経由するとともに、本件土地について、被告秋元、同粟谷との間に、建物の所有を目的とし期間を三年とする短期賃貸借契約を締結した。

被告富久栄は、右の賃貸借が昭和四七年六月一九日の経過とともに期間満了により終了したので、同年一二月二一日の本件口頭弁論期日において、原告らに対し、本件建物の買取りを請求した。

よって、被告富久栄は、原告らが本件建物の売買代金を支払うまで、本件土地の明渡しを拒絶する。

(2) 被告江口正市は、昭和四四年九月一五日、被告富久栄から、別表同被告欄記載の建物部分を、妻である江口敏子名義で賃借した。

よって、被告江口は、被告富久栄から本件建物の所有権を取得した原告らに対し、右の賃借権を主張できる。

3  抗弁に対する答弁

訴外野村隆秋が本件土地を所有していたことおよび被告富久栄が本件建物の買取りを請求したことは認める。その余の事実は知らない。

三  証拠≪省略≫

理由

一  原告らが請求の原因として主張する事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  よって、以下、被告らの抗弁について判断する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認定することができる。

1  訴外野村隆秋は、本件土地を所有していた(この点については、当事者間に争いがない。)が、昭和四三年九月一二日、債権担保のため、その所有権を訴外毛塚誠治に譲渡し、訴外毛塚は、同年一一月七日、被告秋元清八、同粟谷初子に対し、本件土地を代金約七七〇万円で売り渡し、同被告らは、同月八日、本件土地について、中間省略の方法により、訴外野村から同被告らへの所有権移転登記を経由した。

2  被告秋元清八、同粟谷初子は、昭和四三年一二月一四日、本件土地上に本件建物を建築し、同月二〇日、その保存登記を経由した。

3  被告富久栄は、昭和四四年六月一九日、被告秋元、同粟谷から本件建物を代金一、三三五万円で買い受け、その旨の登記を経由するとともに、本件土地について、被告秋元、同粟谷との間に、建物の所有を目的とし、期間を三年とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。

前記一の事実および右認定の事実関係のもとにおいては、本件賃貸借は、民法三九五条本文に定める賃貸借に該当するものというべく、被告富久栄は、本件賃貸借をもって、本件土地の競落人である原告らに対抗することができるものといわなければならない。

被告らは、本件賃貸借が期間満了により終了し、賃借人である被告富久栄が本件建物の買取請求権を取得した旨主張するので、この点について検討する。

民法三九五条本文の規定により、抵当権者に対抗し得る土地の賃貸借の期間が、抵当権実行による差押えの効力発生後に満了する場合は、法定更新に関する借地法の規定は適用されないと解するのが相当であり、さらに、借地法四条二項に定める建物等の買取請求権は、同条項の位置および文理からみて、土地の賃借人が法定更新に関する同法の規定による保護を受け得る場合にのみ肯定されるものと解すべきである(後段の見解は、民法三九五条本文に定める賃貸借についても、その目的物の競落人に対する関係で借地法四条二項の規定が適用されるとすれば、右の賃貸借は、その目的物の交換価値の減少をもたらすこととなり、その結果、抵当権者は、常に、民法三九五条但書の規定により解除請求をすることができるという結論に達するほかはなく、かくては、同条本文と但書の規定が矛盾する結果を招来するという点に鑑みても、肯定されるべきである。)。

ところで、本件賃貸借の期間が昭和四七年六月一九日の経過とともに満了したことは、右3に認定した事実に照らし明らかであり、右の期間満了の時点より前である昭和四五年五月一二日以前に、本件土地について、根抵当権実行による差押えの効力が生じたことは、前記一の事実により明らかである。してみると、法定更新に関する借地法の規定は、本件賃貸借について適用される余地がなく、したがって、本件土地の賃借人である被告富久栄は、右の規定による保護を受け得ない者というべきであるから、同被告は、原告らに対し、借地法四条二項の規定により、本件建物の買取りを請求することはできないものというべきである。

右によって明らかなように、被告富久栄が本件建物の買取請求権を有することを前提とする被告らの抗弁は、すべて理由がなく、排斥を免れない。

三  前記一および二によって明らかなように、原告らの被告らに対する本訴請求は、すべて理由がある。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条および九三条を適用し、なお、仮執行の宣言は、相当でないから、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 川寄義徳)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例